不動産にかかる税金一覧と節税ポイント③【売却時】
不動産を保有することによってかかる税金の種類を取得時、保有期間中、売却時、相続時別といったイベントごとに大まかに覚えておきましょう。また、これらの税額を抑える節税ポイントについて理解しましょう。今回は不動産を「売却した時にかかる税金」について確認していきましょう。
1.不動産の売却時にかかる税金
① 個人事業主:譲渡所得
② 法 人:法人税・住民税・事業税
③ 消費税
① 個人事業主の場合 譲渡所得
個人事業主が保有する物件を売却したときは、売却益(「譲渡所得」)に対して所得税と住民税がかかります。賃貸収入に対する毎年の不動産所得とは別々に計算されるため分離課税と呼ばれていて、お互いの損益を通算することはできません。また、譲渡所得には事業税がかかりません。
所得税と住民税の2つ合計の税率は、物件を保有していた期間によって大きく異なります。
短期(売却した年の1月1日時点で5年以下) 約40%
長期(売却した年の1月1日時点で5年超) 約20%
およそ2倍の税率差があるので計画的に売却を実行していくことが必要です。特に、短期・長期の判定は単純に保有期間が5年ではなく、起算基準日は売却した年の1月1日時点となるので必ず覚えておきましょう。
また、売却損が出た場合は当然税金はかかりませんが、売却損の赤字を他の不動産所得や事業所得、給与所得などの利益と損益通算することはできません。同じ年に物件を複数売却した場合は、黒字と赤字を損益通算することだけが可能で、翌年以降に損失を繰り越すことも認められていないことに留意が必要です。
② 法人の場合 法人税・住民税・事業税
法人が物件を売却した場合の損益は、個人事業主とは異なり、賃貸収入などの他の損益と合算して法人全体の利益に対して法人税・住民税・事業税がかかります。税率は課税所得(利益)の水準に応じて約21%~34%となります。
個人事業主の短期譲渡所得の税率(約40%)を考慮すると、あらかじめ短期間で売却益を狙った物件の場合は、法人で保有している方が税金の支払総額が低く抑えられることになります。
また、売却損となった場合にも個人事業主よりメリットがあります。一つは、他の損益と合算して税金を計算するので、賃貸収入等で得た利益と売却損を相殺して利益の合計額を抑えることが可能です。もう一つは、法人として最終的に赤字になった場合でも、翌年度以降へ赤字を10年間繰り越すことが認められていますので、赤字を切り捨てることなく翌年度以降の黒字との相殺に利用することが可能です。
③ 消費税
不動産物件を売却する際は、建物部分に係る売却金額に対しては消費税がかかりますが、土地の取引に対しては消費税はかかりません。さらに、実際に建物を売却した分の消費税を納める必要があるかどうかは、売却した時点で消費税に係る「課税事業者」かどうかで決まります。これは、個人事業主か法人かにかかわらず同じ判断基準となります。
課税事業者になるケースとして最も多いのは、2年前の課税売上高が1000万円を超えている場合が該当しますが、他にも詳細なルールがあり複雑なので必ず専門家に相談することをおススメします。
物件が住宅の貸付けを目的としている場合、家賃収入は非課税取引のため、もともと課税事業者となっている場合は少ないと思いますが、売却したことがきっかけで2年後に課税事業者となることもよくあるパターンです。売却取引があった場合は、その年だけでなく将来の納税にも気を配る必要があります。
売却に係る消費税は数百万円となるケースもあり、税務調査で申告漏れを指摘されたときのキャッシュ・フローの影響がとても大きいので、ミスの無いよう慎重に判断してください。
※インボイス制度の導入に伴い、過年度の売上水準に関わらず課税事業者を自ら選択するケースが今後増えてくると思われます。一方で、不動産賃貸業が居住用の場合、家賃は非課税取引のためもともと影響なく、また個人との取引ではインボイス(請求書・領収書)が不要なケースも多いかと思いますので、引き続き免税事業者を選択するケースも十分あり得るかと見込まれます。
インボイスの影響についてもどのような対応を採るか、専門家と相談することをおススメします。
POINT!
- 個人事業主は物件の保有期間によって売却益に対する税率(20%または40%)が変わる!
- 法人は保有期間に関わらず利益水準によって税率が決まるので、短期間で売却する場合は個人より税率が低い!また、損失時の損益通算や赤字繰越の点でも個人事業主より有利!
- 消費税は「課税事業者か否か」の判定が重要!インボイス制度は不動産投資家への影響は小さい!