不動産にかかる税金一覧と節税ポイント②【賃貸運用中】

不動産を保有することによってかかる税金の種類を取得時、保有期間中、売却時、相続時別といったイベントごとに大まかに覚えておきましょう。また、これらの税額を抑える節税ポイントについて理解しましょう。今回は不動産の「保有期間中に毎年かかる税金」について、個人事業主と法人に別けて確認していきましょう。

1.不動産の保有期間中にかかる税金

① 固定資産税・都市計画税
② 個人事業主:所得税・住民税・事業税・消費税
③ 法 人:法人税・住民税・事業税・消費税

① 固定資産税・都市計画税

取得時にも登場しましたが、固定資産税や都市計画税は毎年1月1日時点の建物・土地の所有者に対してかかる税金です。都市計画税は指定された地域内に所有する場合にのみ納税義務が発生します。「固定資産税評価額」に対して、それぞれ、固定資産税は1.4%、都市計画税は0.3%を目安として覚えておきましょう。固定資産税等も土地の用地や面積、新築かどうかなどの条件により軽減措置があります。また、条件を満たしたリフォームや耐震強化を実施すると固定資産税を減額できる場合がありますので、リフォームなどの予定がある方は施工会社に確認するようにしてください。こちらの減額は市町村等に申告が必要となるので忘れずに対応するよう注意してください。

② 個人事業主の場合 所得税・住民税・事業税・消費税
  • 制度概要

不動産を個人で所有する場合に毎年の確定申告でかかる税金は「所得税」・「住民税」・「事業税」の3種類の方が多いと思います。事業税は物件数などが一定規模以下の場合はそもそも対象外になりますし、赤字や所得(黒字)が少ない場合は事業税負担が生じない方もいらっしゃいます。
賃貸経営をしている方で消費税の確定申告して納税が必要となる方は少ないと思いますが、店舗・事務所など事業用の不動産、駐車場、太陽光発電事業といった物件の用途によっては確定申告により「消費税」を納める必要がある場合があります。また、物件を売却した場合にも消費税の確定申告が必要となる可能性が高いので税理士に相談されるのがよいでしょう。

3つの税率を合計すると、課税所得(黒字)の金額水準に応じて約15%~60%となります。

住民税(10%)と事業税(5%)の税率は固定ですが、所得税は超過累進課税となっており5%~45%と利益が大きくなるほど税率が高くなっていきます。不動産所得以外にも給与所得があるサラリーマンの方などは合算された所得に対して税率が決まるので、副業や投資の一部として物件を保有されている方は不動産投資により上乗せ分(高い税率部分)を負担していることになります。

一方で法人の場合は最大税率約34%です。この制度・仕組みの違いは法人での投資や法人設立を検討する上で重要なポイントになりますのでよく覚えておきましょう。

なお、個人事業主が保有する物件を売却する場合の税金計算の仕組み・税率は上記とは異なりますのでご留意ください。

 

  • 青色申告制度

個人事業主の場合は青色申告制度を適用することにより、以下の節税メリットを受けられるので税務署の窓口やe-Taxで申請をしましょう。

  • 青色申告特別控除:最大65万円を課税所得(黒字)からマイナスできる
  • 青色事業専従者給与:配偶者などの同一生計の人に支払った給与を全額経費に計上することができる
  • 損失の繰越し:その年に出た損失(赤字)を以後3年にわたり繰り越して、翌年以降の黒字と相殺することができる
  • 少額資産の経費計上:30万円未満の減価償却資産を取得年度に一括で経費とすることができる

青色申告制度の特典を受けるために、適正な決算資料が作成・保存されていることが必要となりますので、要件を確認して体制を整えましょう。面倒だったりよく理解できず要件を満たしていない場合は青色申告の取消しや税務調査により追徴課税となる可能性があるので注意しましょう。無理だと思ったら税理士に依頼するのがよいでしょう。税理士に依頼する費用は上記の特典・メリットを得るためのコストと考えれば高くないでしょうし、この他にも色々な節税対策やキャッシュ・フロー改善提案などアドバイスした結果、依頼を受けて税理士費用を上回る節税額となるケースも多いです。

よくある勘違いとして、「事業的規模じゃないと青色申告制度は適用できない」と考えて申請しない人がいますが、1室の区分所有物件でも上記の要件を満たせば青色申告制度のメリットは享受できますので忘れずに申請してください。税理士でもこのルールを理解していない場合が稀にありますのでご自身の状況を確認されることをおススメします。(※事業的規模でない場合は、青色申告特別控除の金額は10万円となります。)

③ 法人の場合 法人税・住民税・事業税・消費税

不動産を法人で所有する場合に毎期の確定申告でかかる税金は「法人税」・「法人住民税」・「法人事業税」の3種類です。個人事業主の仕組みと同じように収入から経費を差し引いた課税所得(黒字)に対して税率をかけて計算します。
不動産賃貸業のみを事業としている法人の場合には確定申告して消費税を納付するケースは少ないのは個人事業主と同じですが、法人が不動産賃貸以外の事業を経営している会社や資本金が1000万円以上の場合などは課税事業者となり確定申告により「消費税」を納める必要があります。

 

  • 税率の仕組み

法人税・法人住民税・法人事業税の3つの税率の合計は、課税所得(利益)の水準に応じて約21%~34%となります。

資本金1億円未満の法人の場合も利益の水準に応じて税率が高くなる点は個人事業主と同じですが、最大税率が約34%と上限が低く抑えられています個人事業主は最大約60%で2倍近く税金を納めることになるので、利益が大きくなってきたら法人設立を検討するべき理由がこの税率の違いにあります。また、利益が800万円以下の場合は約21%の税率になるので、法人でしかできない節税メリットを上手く活用して利益を800万円以下に抑えれば節税効果を最大化させることも可能です。

実際にどれくらいの規模から法人化すべきかどうかは、投資物件の利益水準だけでなく、賃貸経営以外の収入状況や家族構成、売却や相続税まで検討に入れるか、どのような法人化スキームを選択するか等によってシミュレーション結果が大きく変わってきますので、不動産投資に詳しい税理士に相談して検討を進めてください。
法人化の検討開始の目安としては、利益が300万円くらいになったら一度ご相談することをおススメします。不動産投資以外の他の収入が大きいサラリーマンの方などは、もっと低い利益水準で検討した方がいいケースもあります。

なお、資本金が1億円以上の法人の場合は税金計算が複雑になりますが、税率は概ね一律固定の約30%になります。資本金1億円を超えるのは資金余力がないと難しいのでレアケースですが、税金の額をさらに抑えたい方は検討の余地があるので、一度税理士にシミュレーションを依頼してみてください。

 

  • 法人の節税メリット

法人には個人事業主よりも認められる経費の幅が広いなど、税金支出を低く抑えるための手段が制度上たくさん整備されています。主なメリット・節税対策を以下に紹介します。これらの対策を活用して税率が約21%となる利益水準(800万円以下)に抑えることでさらに効果を高めていきましょう。

  • 青色申告制度
    法人にも青色申告制度がありますが、得られる主なメリットは、損失の繰越しと少額資産の経費計上になります。特に損失の繰越しは、法人の場合、翌期以降10年間の長期間にわたって黒字と相殺することが可能です。
  • 売却時の税率
    個人事業主の場合、不動産を保有する期間で売却益に対する税率が変わります。短期(保有期間5年以下)で約20%、長期(保有期間5年超)で約40%の固定税率がそれぞれ掛かります。一方、法人の場合は、保有する期間にかかわらず、上述した税率(約21%~34%)が適用されます。短期での売却を想定している場合や利益が800万円以下の場合には、法人の節税メリットを享受できます。
  • 所得分散効果
    法人で保有する場合、配偶者や親族にも給与や役員報酬を支払い経費に計上することが可能です。法人で得た利益を税率の低い個人へ分散させることにより、総額で支払う税金が低くすることが可能です。また、相続税対策として、お子様やお孫様に法人の役員に就任してもらえば、不動産物件から得られる収入を役員報酬という形で生前中に分配することによって、将来支払う相続税を削減させていくことも可能です。
  • 家賃、出張手当の経費計上
    法人の福利厚生に関する社内規則を整備することにより、法人の役員として住む賃貸住宅の家賃や物件の調査に係る出張手当などの経費を計上することが可能です。これらは手元の現金を増やすことができる非常に効果が高い節税対策ですので、分譲住宅に住んでいない場合はぜひ導入を検討してください。
  • 複数の法人設立
    個人の累進税率に比べると緩いですが、法人の税率も利益により上がっていきますので、税率の下限(約21%)となる利益(800万円以下)に抑えることが肝要です。法人の場合、物件ごとに法人を設立することも可能ですので、黒字の物件が複数ある場合は法人もそれぞれ別けることにより低い税率が適用され分散効果を享受することができます。
  • 役員退職金の経費計上
    個人事業主には退職金は認められていませんが、法人の場合、役員に対して退職金を経費に計上することができます。物件を売却して利益が大きくなる場合、退職金を支払えば利益と相殺することが可能です。さらに、所得税の計算上も退職金は給与に比べてかなり低減されますので、最終的に手元に残るキャッシュが大きく異なります。また、相続税対策としても退職金は非常に有効な手段になりますので、ぜひ活用してください。

この他にも法人に特有の節税対策は多く、上手く活用することで手元に残るキャッシュ・フローが大きく変わってきますが、知らなければ利用されずに損をしている可能性もありますし、知っていてもルールに従って活用しなければ認められない場合もあるので、基本的には専門家の力を借りるのがよいでしょう。

POINT!

  • 個人事業主は最大税率が約60%と高いが、法人の最大税率は約34%と低い!
  • 不動産物件の利益が約300万円を超えてきたら、法人化の相談を始めましょう!